「有る・有る・有るのアル!」 その1(微修正)

大阪万博、国民的な盛り上がりに欠ける理由は?(毎日新聞 2018.12.12)


 このタイトルを見て分かる人はいないと思います。「何すか?これ?」としか思えないでしょう?これは私が代理店時代に先輩から教わったイベントの構造やスポンサーシップの基本なんです。

 私は元々音楽クリエイターでした。しかしそれは若くして食える様になってしまった為、興味はモータースポーツへと移っていき、幸いにも日本でNo.1の代理店の知己を得た事からその方向へと流れていきました。

 その最初の仕事で、ある企業のモータースポーツへのスポンサーシップを担当する事となり、企画書を書くよう命じられました。そして出来た企画書を代理店の社内プレゼンにかけると「バカか!おめーは!」と罵倒されたのです。

「お前の趣味を書いてくれなんて言ってねーんだよ!」とかなり辛辣な言葉をぶつけられました。こちらもカチンと来て「だってスポンサーシップの企画書だろ?何がおかしいわけ?」と相当ぶつかったと思います。


 そこで上司から言われた言葉がタイトルの言葉「有る・有る・有るのアル!」なんです。

 「いいか?俺たちは確かに(制作料金が)高いと言われる。けどな?同時にクオリティは本当に高いと言われる。No.1の会社なのだから、全てのクオリティはクライアントの希望を完全に満たす様にしないとダメなんだよ。お前のやりたい事にカネを使いますって話しじゃないんだよ!」

 もう悔しいなんてモンじゃないくらい言われましたが、確かにその言葉に反論する余地がありません。

 その先輩から教わった「有る・有る・有るのアル!」とは何だったのか?
それを説明します。その事で今モヤモヤしている大阪万博がどこで躓いているのか?を論理的に理解できれば、と思います。
 「維新が悪い!」は事実でしょうが、そもそも彼らもどこで躓いたのか?は彼ら自身が理解出来ていないんですよ、彼ら自身がね。

 参考例として、モータースポーツで最も成功したと言われるフィリップモーリス社のブランド〝マールボロ〟を例にとって説明します。

1.有る【大会冠スポンサー】



 まず一番目の「有る」は大会の冠スポンサーを押さえる事です。そこを押さえればコースの一番目立つところの看板(この写真の場合、スターティングライン上のブリッジ看板)を買え、どうやってもカメラが最初に押さえるシーンを作り出せます。

2.有る【大会冠スポンサーに連動するパート】


 次に冠スポンサーと連動するポディウムのバックドロップを押さえる事。これもTVや報道で映る可能性が非常に高いですから、これも必須だ、と。

3.有る【コース上のメディアの露出の高い場所の看板】

*サットン、スマン!写真を勝手に使ったんで今度会ったらメシを奢るよ


 それから要所・要所の看板だと。つまり最初からターゲットは「メディアにどれだけ露出させるか?」がターゲットなんだ!という事を叩き込まれました。

 このTVでのカバーをまず押さえることは、私の会社用語で「オセロの四隅」と呼んでおります。まずこのメディアのオセロの四隅をガッチリと押さえつける事。これがPRやプロモーション、そして何より「企業がお金を出す」理由の一丁目一番地なんです。

 しかし…ですよ? 世の中には看板に憧れを持って試合会場に足を運ぶバカはいません。ここで大きな矛盾が生じます。企業メッセージを込めた看板を建てているのに、それは眼中に入らない。企業側としてはそれでは困る。そこで見る人たちがその看板へのリスペクトを促す様な方向に仕向けるのです。

 それで初めて四番目の「アル」が出てくる訳です。

4.アル!【チームや選手へのスポンサーや投資】


 ここで初めて見る人が「感情移入をする対象」。マーケティング用語で言うと「マインドシェア」を獲得するツールとして、チームや選手へのスポンサードという手段を用います。

マインドシェア - 消費者の心の中で企業やブランドが占めるの割合。第一起想された企業やブランドのシェアであらわされます。
市場シェアと対比して用いられる言葉で、消費者の心の中でどれだけ強く印象付けられているかの指標となる。「車のメーカーといえば・・・」の質問に対して最初に浮かび上がるブランド名が第一起想といいその消費者にとってのマインドシェアNO1となります。

  さてここまで書けば、勘の良い人は何となく「ぼや〜」と言いたい事が見えてくると思います。

 まずこの冠スポンサーの資金はその大会の非常に重要な〝タネ銭〟となります。イベントをやるにはこの〝タネ銭〟をどこが出すか?が大会を推進する一丁目一番地となるのです。例えば筑波の万博ではNECが、花博ではパナソニックが。そして愛・地球博ではトヨタがそもそものタネ銭をキチンと出しました。もちろん国や自治体も負担しますが、メインとなる事実上の冠は?この部分を後半で〝課題 - A〟としましょう。

 話しを戻します。

 この四つの「有る・有る・有るのアル!」のうち、前半三つの「有る」は舞台装置。そして四番目の「アル」はその舞台に立つアクターやエンターテナーであると言う事に気が付きますでしょうか?

 なぜ看板を適時出さないとならないか?は三番目の「有る」の写真を見てください。JTのブランド、マイルドセブンがスポンサーするベネトンが、マールボロの看板の前で歓喜のゴールです。はい、そうです。この写真、JTとしてはちょっと使いずらいですね。よその敷地で自社のPRをしている様なモノです。

 だからこの最初の「三つ」の「有る」はイベントをプロモートしていく際のオセロの四隅なんです。

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 ここで出てきた「有る・有る・有るのアル!」は敢えて命名すると、最初のワン・レイヤー目の「有る・有る・有るのアル!」なのです。

 このワン・レイヤー目がベースとなって次の「有る・有る・有るのアル!」、言うなればツー・レイヤー目の「有る・有る・有るのアル!」が重なります。例えばそれがTVのCM出稿、雑誌やネットへの広告、サーキットのグランドスタンド裏のイベントやグッズの開発、ステッカーの配布等、etc…etc…。

 予算によりけりでこの「有る・有る・有るのアル!」のレイヤーが何重にも重なっていく。イベントとプロモーションはこう言う成り立ちが基本としてある、と言う事をまず覚えてください。

だからちょっと話しはモタスポ寄りに触れますが、

「スポンサーお願いします!」
「 クルマにロゴ貼りました!」
「Tシャツ作りました!」
「グッズ配りました!」

が、企業のターゲットとするポテンシャルマーケットに大きな波及効果を与えないのは、これを読んだら理解出来ますでしょ?

 オセロを四隅をキチンと押さえていないんですよ。これはJRPがいま悩んでいる部分に通ずるところでもあると思うのですが、気がついているのかな?

 まずここまでを「その1」とします。この論理を大阪万博に落とし込んだ時、明確な問題点が浮き彫りになりますので、それは後日という事で。

《続く》